【2026年改訂版】タイで従業員を解雇する際の注意点【企業担当者向け】|不当解雇リスクと補償金を弁護士が解説

タイの法律
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この記事でわかること

  • ✔ 「懲戒解雇」と「普通解雇」の違いと使い分け
  • ✔ 解雇補償金の計算方法と勤続年数別の早見表
  • ✔ 不当解雇と判断される典型的なパターン
  • ✔ 契約社員・外国人従業員の解雇における注意点
  • ✔ 2025年12月施行の労働者保護法改正ポイント

タイにおける解雇問題は、企業の評判・コスト・法的リスクに直結する重大な事案です。タイの労働裁判のうち約9割が解雇絡みとも言われており、年間3万件を超える労働裁判が起きています。日系企業でも解雇トラブルは頻繁に発生しており、事前の対策が極めて重要です。

「懲戒解雇」と「普通解雇」の違い

タイの解雇には大きく2種類があり、それぞれで企業側の義務が全く異なります。誤った対応をすると「不当解雇」と判断され、高額な損害賠償を命じられるリスクがあります。

① 懲戒解雇(即時解雇・補償金不要)

従業員が以下に該当する重大な不正・違反行為を行った場合、企業は即時解雇が可能で、事前通知・解雇補償金ともに不要です(労働者保護法第119条)。

  • 業務上の不正行為、または雇用主に対する故意の犯罪行為
  • 故意に雇用主へ損害を与えた場合
  • 不注意により雇用主に重大な損害を与えた場合
  • 就業規則への重大な違反(書面警告後1年以内の再違反を含む)
  • 正当な理由なく連続3日間以上(休日を挟む場合も含む)無断欠勤した場合
  • 最終判決で懲役刑を科された場合

⚠ 注意:懲戒解雇であっても、解雇通知書に理由を明記し、それを裏付ける証拠の整備が必要です。証拠なしの「口頭のみの解雇通告」は後に不当解雇として訴えられるリスクがあります。

② 普通解雇(事前通知・解雇補償金が必要)

経営判断や人員整理・能力不足などを理由とする一般的な解雇。従業員側に重大な落ち度がないため、法律上、以下の義務が生じます。

  • 30日前の書面による事前通知、または通知に代わる予告手当の支払い
  • 勤続年数に応じた解雇補償金の支払い(詳細は次章)

解雇補償金の計算方法と早見表

普通解雇の場合、法律により勤続年数に応じた解雇補償金の支払い義務が生じます(労働者保護法第118条)。金額は退職時の「最終賃金」をベースに計算します。

勤続期間 解雇補償金(最終賃金ベース)
120日未満 支払い不要
120日以上 〜 1年未満 30日分以上
1年以上 〜 3年未満 90日分以上
3年以上 〜 6年未満 180日分以上
6年以上 〜 10年未満 240日分以上
10年以上 〜 20年未満 300日分以上
20年以上 400日分以上

例:月給5万バーツの従業員を5年(3〜6年未満)で解雇する場合 → 50,000 ÷ 30 × 180 = 30万バーツの解雇補償金が必要です。

解雇補償金に関する3つの落とし穴

① 契約社員でも補償金は必要

「1年間の契約社員だから契約終了で補償金は不要」と誤解している企業が多く見られます。しかしタイでは、120日以上勤務した契約社員の契約期間終了も「解雇」とみなされ、勤続年数に応じた補償金の支払い義務が生じます。

② 定年退職も補償金が必要

2017年の法改正により、就業規則等に基づく定年退職も「解雇」とみなされ、解雇補償金の支払い義務があります(第118/1条)。

③ 解雇補償金の所得税非課税枠(2024年7月改正)

2024年7月、解雇補償金の所得税非課税対象が拡大されました。会社都合解雇の場合、最終400日分以下の賃金で上限60万バーツまでが非課税となります(財務省令第394号)。ただし定年退職・契約終了による補償金は対象外です。

事前通知(解雇予告)のルール

普通解雇の場合、少なくとも次の給与支払日の1期間前までに書面で通知することが原則です。実務上は30日前の書面通知が標準とされています。通知を省略する場合は、通知手当(30日分相当の賃金)を別途支払う必要があります。

なお、機械化・合理化による整理解雇(リストラ)の場合は、労働監督官と本人に60日以上前に通告する義務があり、これを怠った場合は通常の解雇補償金に加えて60日分の特別補償金も必要となります(第121条)。さらに勤続6年以上の従業員には1年あたり15日分の追加補償が必要です(上限360日分)。

絶対に避けるべき「不当解雇」のパターン

以下のケースは、タイの裁判所が特に厳格に判断し、高額な損害賠償を命じることがあります。

① 報復的解雇・差別的解雇

  • 妊娠中の従業員を妊娠を理由に解雇すること(明文禁止。LPA第43条)
  • 労働組合活動を行った従業員の解雇
  • 内部通報(公益通報)をした従業員の解雇

これらは差別的・報復的解雇として違法となり、再雇用命令または多額の損害賠償が命じられます。

② 証拠のない口頭解雇

解雇理由が明確でも、文書化されていない場合は裁判で不利になります。解雇通知書・警告書・業務評価記録は必ず書面で保管してください。

③ 就業規則が未整備のまま「規則違反」を理由に解雇

従業員が「違反した」と言えるためには、その規則が就業規則に明記され、全従業員に周知されていることが前提です。就業規則のない会社では懲戒解雇の正当性を主張できません。

外国人(日本人)従業員の解雇における特別な注意点

日本人を含む外国人従業員(Expat)の解雇は、ビザ・労働許可証(Work Permit)の有効性と連動するため、通常の解雇よりも複雑な対応が必要です。

  • 雇用終了と同時にビザ・労働許可証も失効し、在留資格を失う
  • 出国までの猶予期間について事前に合意しておくことが重要
  • 書面による解雇通知と、入国管理局・労働省への適切な届出が必要
  • 本人が自主的に退職・出国できるよう、十分な通告期間を確保することを推奨

【2025年12月施行】労働者保護法改正の主なポイント

2025年11月7日に官報に告示され、同年12月7日から施行された労働者保護法改正(第9版)により、雇用主は以下の新しいルールに対応する必要があります。

改正項目 改正前 改正後(2025年12月7日〜)
出産休暇 98日(有給45日) 120日(有給60日)
配偶者出産支援休暇 規定なし 最大15日(有給)新設
新生児療育休暇 規定なし 最大15日(半額有給)新設※子に障害・合併症がある場合

この改正は現在出産休暇中の従業員にも適用されます。就業規則のアップデートと従業員への周知が必要です。また国会では、週休2日制の法制化・週労働時間の上限短縮(48時間→40時間)を含むさらなる改正案の審議が続いており、今後の動向にも注意が必要です。

解雇トラブルを防ぐための日常的な準備

就業規則の整備(10人以上の雇用主は法律上の義務)

10人以上の従業員を雇用する場合、タイ語の就業規則を作成し、職場に掲示する義務があります(第108条)。就業規則には少なくとも以下を盛り込む必要があります。

  • 労働日・勤務時間・休憩時間
  • 休日および休日に関するルール
  • 時間外労働・休日労働のルール
  • 賃金・各種手当の支払い規定
  • 休暇の種類と取得ルール
  • 懲戒規定(違反内容と罰則を具体的に明記)
  • 解雇・解雇補償金・特別補償金に関する規定
  • 苦情申し立て手続き

Warning Letter(警告書)の活用

問題のある従業員には、口頭注意ではなく書面による警告書(Warning Letter)を交付し、改善の機会を与えることが重要です。警告書の有効期間は発行日から1年間で、同一の規則違反が繰り返された場合に懲戒解雇の根拠となります。警告書なしでの「規則違反を理由とした解雇」は、裁判で認められないケースが多くあります。

証拠の記録・保管

  • 業務評価記録・勤怠記録を定期的に文書化
  • 警告書・指導記録はすべて書面で交付し、受領確認を取る
  • 問題行動が発生した際はメールや報告書で記録を残す
  • 解雇通知書には理由を具体的に記載し、証拠書類を添付

労働紛争に発展した場合の対処法

万一、解雇をめぐって元従業員から労働裁判所へ訴訟を提起された場合、タイでは口頭による提訴が認められており、裁判手数料も免除されているため、従業員側が提訴しやすい構造になっています。

裁判外での解決手段として、労働省・労働裁判所での調停制度(conciliation)があり、訴訟に発展する前の段階での和解を目指すことができます。早期解決の観点からも、まず弁護士と相談の上、適切な補償金額での交渉による解決を検討することをおすすめします。

不当解雇と判断された場合、裁判所は解雇時と同額の賃金での再雇用命令、または継続雇用が困難と認める場合には損害賠償命令を下すことができます。損害賠償額は、従業員の年齢・勤続年数・困窮度・解雇の原因などを総合的に考慮して決定されます。

まとめ|解雇前のチェックリスト

確認項目 懲戒解雇 普通解雇
正当な解雇理由の確認 必須 必須
証拠書類の整備 必須 必須
30日前の事前通知 不要 必要
解雇補償金の計算・支払い 不要 必要
Warning Letter の発行履歴確認 必要(規則違反の場合) 推奨
外国人の場合:ビザ・WP対応 必要 必要
弁護士への事前相談 強く推奨 強く推奨

タイでの解雇・労務トラブルにお困りの企業様は、T&Tomorrow法律事務所へご相談ください。
日本語で対応いたします。初回相談無料。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 試用期間中の従業員を解雇する場合も補償金が必要ですか?

試用期間中でも120日以上勤務している場合は補償金が必要です。119日以内であれば不要なため、実務上は試用期間を119日以内に設定するケースが多くあります。

Q. 従業員が自主退職した場合も補償金を払う必要がありますか?

自主退職の場合は解雇補償金の支払い義務はありません。ただし、退職勧奨(会社側からの退職の打診)の場合は「事実上の解雇」とみなされる可能性があるため注意が必要です。

Q. Warning Letterは何通発行すれば解雇できますか?

法律上、発行通数の明確な規定はありませんが、実務上は同一の違反に対して警告書発行後1年以内に再度同じ違反があった場合に懲戒解雇が認められます。就業規則に回数を明記しておくことを推奨します。

Q. 解雇補償金を支払えば不当解雇にならないのでしょうか?

補償金の支払いは必要条件の一つですが、それだけでは不十分です。正当な理由・適正な手続き・証拠の整備がすべて揃って初めて適法な解雇となります。補償金を払っても「解雇の理由が不当だ」と訴えられるケースがあります。

監修:タイ国弁護士 Ms. Mallika Thepwong(タイ弁護士会所属)

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